2019年3月29日
日本経済新聞(2019/3/29 朝刊21ページ)に当社代表取締役 鈴木のコメント記事が掲載されました。
市場再編 ランキングで探る課題(3)マザーズ「1部がゴール」
昇格後、半数が時価総額減
東京証券取引所は市場再編に伴い、1部上場企業を量産してきたマザーズからの昇格基準を厳しくする見込みだ。マザーズから1部の8%にあたる164社(2月末、上場廃止除く)が昇格したが、約半数が昇格後に時価総額を減らした。緩い基準で促成栽培された昇格企業には「1部昇格ゴール」との批判も多く、市場の質を上げるために避けて通れない道だ。
東証はマザーズを「東証1部へのステップアップを視野に入れた成長企業向け市場」と位置づける。直接上場やジャスダックからの昇格には250億円の時価総額が必要だが、マザーズからは最低40億円あればいい「優遇措置」を与えている。
東証がマザーズからの1部昇格基準を緩くしているのは、新興企業の誘致を巡って旧大阪証券取引所と競争を繰り広げていた名残だ。2013年の大証との市場統合後もマザーズと大証傘下だったジャスダックを併存させてきた。
知名度が上がったり人材獲得で有利になったりする1部にいち早く上場するため、マザーズからの昇格ルートを選ぶ企業は多い。18年に新規株式公開(IPO)した90社のうち半数以上がマザーズ上場を選んだ。
もっともマザーズから昇格を果たした後に業績や株価が低迷する企業が多いのも事実。マザーズからの昇格企業の46%にあたる75社は1部昇格後に時価総額を減らした。
時価総額を減らした企業で目立つのがゲームやサービス関連だ。ブームを追い風に1部上場を果たしたが、成長が長続きしなかった企業が多い。
携帯ゲームのボルテージは10年のマザーズ上場から約1年で東証1部にスピード昇格した。その後は競争激化でゲームの課金収入が低迷。昇格時の時価総額は106億円だったが、28億円と4分の1に減少した。
16年に昇格した接骨院チェーンのアトラは、積極的な新規出店が利益に結びつかず業績が低迷。マザーズからの昇格時に100億円に届かなかった時価総額が今は30億円台とさらに小粒化した。
14年にマザーズに上場したアニメ制作会社のディー・エル・イー(DLE)は不正会計が発覚した。1部昇格を目指し、経営陣主導で決算をよく見せかけようとしていたという。時価総額は1部昇格後に8割減った。
1部昇格そのものが目的化し、その後の成長が失速する企業の増加に「1部上場がゴールになっているのではないか」(IPOコンサルティング会社ラルクの鈴木博司社長)との批判も増えている。時価総額は最低20億円で1部上場を維持できる。日銀など指数マネーで株価が下支えされるため、現状に満足してしまう企業が少なくない。
「昇格後に短期間で最高財務責任者(CFO)など重要な人材が入れ替わる例も散見される」(ラルクの鈴木氏)。上場基準の緩さが促成栽培による1部企業の数の膨張と質の低下を招いてしまったのは否めない。
市場再編に伴い東証はマザーズからの昇格基準を厳しくする見込みだ。時価総額基準の引き上げだけでなく「IPO後の成長を後押しする仕組みづくりも必要だ」(あずさ監査法人の鈴木智博IPOサポート室長)との指摘が出ている。